現在、世界の最先端を行くマウンテンバイクのグローバル基準として、多くのメーカーやFOXが推奨している静的サグ値はフロント20%、リア30%付近という深さです。
「そんなにサグを取ったら、フニャフニャしてペダリングロスが生まれるのでは?」
そう考えて、無駄に空気圧を上げてサスペンションをカンカンに固めてしまっているライダーを、今でも数多く見かけます。しかしそれは、最新テクノロジーが詰まったサスペンションを、ただの「高い突っ張り棒」に変えてしまう、非常にもったいない誤解です。
◆ 1. サグの本質は「地面に届く余白(ネガティブストローク)」
サグ(初期の沈み込み)とは、単にライダーの体重を支えるためのものではありません。路面の「凹み」に対してサスペンションが瞬時に伸び、タイヤを常に地面に押し付け続けるための「ネガティブストローク」を確保する作業です。
これは下りだけでなく、特に「登坂時」において絶大な威力を発揮します。登りセクションにある木の根やガレ場、浮き砂利に対して、ばねを固めたサスペンションは路面の凹凸をいなせず、追従(リトラクト)しないためにリアタイヤが一瞬で空転(ホイールスピン)してしまいます。
サグを25〜30%正しく取るからこそ、あらゆる路面変化に対してタイヤが常に100%接地し、ライダーのパワーをロスなく路面へと伝え続けることができるのです。
◆ 2. 「沈み込み」を推進力に変えるアンチスクワット機構
多くのライダーが過剰に恐れている「ペダリングロス」ですが、現代のバイクにおいては、私たちが気にしているほどのロスはほとんど発生していません。それどころか、恩恵の方がはるかに大きいのが事実です。
昨今のフルサスペンションバイクは、チェーンが引っ張られる力(チェーンテンション)を利用して、ペダリング時のスクワット(沈み込み)を打ち消す「アンチスクワット特性」が各メーカーのリンク設計によって緻密に計算されています。そして驚くべきことに、その効果はまさにこの「リアサグ30%付近」で最も効率よく発揮される仕組みになっているのです。
つまり、サグを正しく取って走るということは、ペダリングの入力によってサスペンションの沈み込みさえもが「路面を後ろへ蹴り出す推進力」へと変換される、バイク本来のメカニズムを100%呼び覚ますということなのです。
ばねを硬くしてサグを浅くしてしまうと、このリンクの美味しい領域から外れてしまい、かえってバイクの進みが悪くなってしまいます。

